玄界灘と限界オタ

インターネットで細々と生きています @toiharuka

【必見】スマブラがコロナウイルスに効く……!?驚きのエピソード教えます!

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全く関係ないDiscordでのやりとり


この間、ドラッグストアに行ったときのこと。
僕は鯖の味噌煮の缶詰を5ダースほどカゴに流し込んでいた。これで一か月は持つだろう。
レジに向かう途中で芳香剤の匂いにつられ、いろいろ見てみる。部屋にいることが常になりつつあるので、部屋の匂いを整えておかなければならない。しかし、コロナに罹ると匂いを感じなくなると聞いたな……どうしよう。
そんな思慮を巡らせていたところ、ドラッグストアの一角がなにやら騒がしい。
三密でヤンスな~どれ自分以下の人間を眺めて小生はまだマシだと心の安寧を保つかな、と覗きに行くと、マスクを手にした少年と筋骨隆々の暴漢がにらみ合っているのである。
「このマスクは僕が先に見つけたんだ!邪魔しないで!」
「坊主、俺は完璧主義でな……コロナ対策は万全を期しておきたいんだ。悪いことは言わねぇからそのマスクを寄越しな?」
自前のアルコールスプレーを取り出し、手に一吹きする暴漢。それを擦り合わせながら、不敵な笑みを浮かべている。
間違いない、この暴漢はマスクを手に入れるために手段を選ばない!
先程から様子を眺めていたらしい40代ほどの男性も、隣に立って言う。
「おい君、不味いぞ。これはまさか──」
「ええ、そのまさか──」
「「非常事態宣言時における『スマブラ』での勝敗決定!」」
僕と男性の声を皮切りに、少年と暴漢は同時にGCコンを取り出す!
コロナ騒動以降、日本政府は三密回避の観点から非常事態宣言中の民事刑事両方の裁判の一切を停止。その代替案として、原告側と被告側は大乱闘スマッシュブラザーズSPで対戦し、勝敗を決するのである。
僕は辺りを見回し、レジからこちらの様子を伺っていたらしい店員に目で合図を送る。
軽く頷いて反応した店員は、レジ下のボタンにアルコールを一吹きして押し込んだ。
少年と暴漢の間の床が重厚な音を響かせながら開く。深い深い小さなクレバスからせり上がってきたのは、2台のモニターとSwitchである。
「家でお母さんが待ってるんだ!このマスクは絶対渡さない!」
「いまは丁度ミルクが余ってるんだとよ、代わりにそれ買ってママに飲ませてもらいな!」
男性がツバを飛ばしながら叫んだ。
「賽は投げられたッ!」

お互いラストストックで流れをつかんだのは暴漢のロボットだった。
コマを射出し、それを掴む。序盤にシールドに対してすこし様子見してからコマを投げていたのを考慮したらしい少年のクラウドは、その射線上から逃れようと空中へ飛びあがった。
「マヌケめ!」
合わせて飛び上がる暴漢。コマを一瞬離し空前で少年を叩き落とす。
「マズい! 彼はコマをキャッチしている!」男性が叫ぶ。
その大きな手からは想像もつかないような繊細な操作で、コマを離し空中攻撃で掴みながら畳みかける。
「一気に端まで……!」
「火力も高い!ヤバいぞ少年!」
少年のクラウドが辛うじて崖を掴んだ。
%は真っ赤に染まり、代わりと言ってはなんですが、という感じでクラウドの身体は申し訳なさそうに蒼く、淡く灯されている。このリミットが最後の光だ。
暴漢はコマを生成せずに、後ろを向きながら少年の崖上がりを待っているようだった。空後での撃墜を狙っているのだ。
意を決したようにジャンプ上がりしたクラウドは絶妙なタイミングで身を翻し、ロボットの空後を回避した。
着地したロボットとクラウドが相対する。密着状態を嫌ったロボットは「社会的距離」を空けようとするかのように、ステージ中央に向かって回避をした。コロナ対策に神経質になりすぎた故にできたらしい、暴漢の手癖だった。
それを見逃さず、少年は一気に加速。まだ回避の後隙を消費しきれずに身体を捻らせているロボットの腹に画竜点睛を叩き込んだ。
「ぐぁあっ!!」
GAME SETの文字とともに弾き飛ばされる暴漢。
Switchに取り付けられたJoyコンからHD振動によって射出される音速の衝撃波は、敗者の腹部を的確に殴り飛ばしたらしい。暴漢は床に大の字になって動かないが、死ぬほどの威力ではないので心配はない。
「熱い試合でしたね……」
僕の呟きを尻目に、男性が暴漢のGCコンを拾い上げる。
「ああ、これでマスクの所有権は少年のものとして法的に認められる。一見落着……ウッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「何!?!?!!??!?!?!」
男性が急に胸を押さえながら倒れた。コントローラーが再び床に転がる。
これは一体!?
「ゴッッッホ!!!肺が苦しい!!!!コロナだこれ!!!!」
「そういえば貴方マスクすらしていませんね!!!!!罹って当然だボケ!!!!!!!!」
そのとき、男性が落としたコントローラーがカタカタと震えだした。
その震えは段々と大きくなり、一瞬静止して、ふわりと浮かび上がった。
「ど、どうなってるんだ……」
蜂がホバリングするように、空中に留まり続けるGCコン。
そして次の瞬間、独りでにスティックが動き始めた。
不気味なGCコンはキャラ選択時の名前欄を選択し、素早くタイピングを始めた。
『俺はコロナウイルス
『その男に身体にいたが』
『どうやら先程の戦いで』
『男の体温が急上昇し』
『俺は活性化したらしい』
僕には到底信じられなかったが、この浮いているGCコンが何よりの証拠である。
任天堂の回線を利用し』
『俺は全世界に飛び立つ』
『在宅でゲームしている』
『人間全員に感染する』
『活性化した俺ならば』
『電波に乗るなど容易だ』
恐ろしいキーコンを連続で作り出すコロナウイルス
途中でキーコンが一杯になり、コロナウイルスはなんと自分以外のキーコンを恐ろしい速度で削除し始めた。それ見た店員は、「僕のキーコン……」と一言呟いて、少し泣いていた。
このウイルスが外に出れば、確実に世界は混乱に陥るだろう。なんとしてもここで食い止めなくてはならない。
「僕がこいつを止める……!」
険しい顔の少年が立ち向かう。
人類対コロナの戦いが始まった。

コロナウイルスのゲムヲは少年のクラウドにぴったり張り付いて、高いコンボ火力を稼ぎ続ける。
コントローラー全体に纏わりついたウイルスが、スティックとボタンをミクロン単位で操っているのだ。
それでも、何とかバースト拒否を徹底して食らいつく少年のクラウドは、まだ諦めてはいないように見えた。
「こいつ、目がついてないせいか画面をみていない……!まだ勝機はある!」
少年が叫ぶ。
だが、よろよろと起き上がった先程の男性がそれを否定する。
「しかし、コロナウイルスはそのハンデをむしろプラスに変えている……ゲムヲを使うことによって……!」
完全に画面をみていない上スマッシュがクラウドにヒットした。男性の言葉は明らかに説得力を帯びていた。
ラストストックになったクラウドに、畳みかけるように空Nを当てるゲムヲ。少年もなんとか撃墜を返すが、お互い1ストで90%の差はあまりにも大きかった。
「このままだとどこかで絶対に上スマに引っかかる……!」
男性が呟く。その表情はあまりにも悲観的で、自分の無配慮で持っていたウイルスが世界を危機に陥れようとしていることに絶望し、また心から悔やんでいるらしかった。
世界は終わるのか……僕も覚悟を決めようとしていた。

そのときコロナウイルスが操るGCコンの真後ろに、腹を押さえた暴漢が立っていた。
「意識が朦朧としててよくわかんねえが……こいつがウイルスなら消毒しちまえばいいじゃねえか……!」
そして、自前のアルコールスプレーを一吹きした。ゲムヲの動きが明らかに硬直する。
「今だッッ!!!!」
暴漢が叫ぶと、GCコンが暴漢の腹部に向かってめり込んだ。再び吹き飛ばされ、商品棚に突っ込む暴漢。
しかし少年はその隙を逃さなかった。空前着地から台を経由し火力を伸ばし続ける。
コロナウイルスが再び増殖し、GCコンの操作を取り戻したとき、ゲムヲは崖外に追いやられていた。
少年のクラウドが空中で距離を詰める。コロナウイルスは慌てて回避を擦った。
「残念だったなコロナ……現実じゃ何日も潜伏できるのかもしれねーが、スマブラでは精々30フレームが限界だぜ」
不敵な笑みを浮かべた暴漢が呟いてすぐあとに、回避を見た空前がコロナウイルスのゲムヲを叩き落とした。


その後に聞いた話だが、少年がコロナウイルスを倒したことによりスマブラSPコロナウイルスの構造を分析することに成功、VIP部屋を通じて桜井政博の元へデータが送られたらしい。
それをもとに桜井政博ドクマリを超強化するアップデートを敢行。無事に全世界のコロナウイルスは撲滅された。
かわりに強くなりすぎたドクマリがオンラインに蔓延する事態となったが、当のパッチ製作者はそんなこと気にせずにふくらしとじゃれ合っているらしい。自宅待機が解除されることでまたしばらく遊べなくなる、とツイートでぼやいている。

次のオフ大会の日程が決まったそうだ。一か月先の大会に向けて、スマブラー達は活気を取り戻し始めた。もう少し、もう少しだ。
カチカチと鳴り響くスティックの音に紛れて、プレイヤーたちの熱気の匂いがした。