玄界灘と限界オタ

インターネットで細々と生きています @toiharuka

大量のMkLeoにそれぞれ全キャラ極めさせて最強のキャラランクを作ろう

みなさんはキャラランク好きですか?

僕は好きです。リトルマックを一番上に置きます。カスですね。みんないろんな意見があっていいと思います。

 

では、世間一般で評価の高い、信頼されるようなキャラランクとはいったい何なのか?

たとえば、強いプレイヤーがしのぎを削って示した大会結果をもとに作るキャラランクは信頼してもよいと言っていいでしょうか。

僕がリトルマックをいくら強いと連呼しても、大会で結果を残せていないリトルマックが信頼されるようなキャラランクの上位に置かれることはありません。やったね。

まあ素晴らしい手法ではあるのですが、ひとつ問題が。

強いプレイヤーがどのキャラを選ぶかで、キャラの分布と強さが推移してしまうのです。

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このツイートの通り、スマブラforで最強を誇ったZeRoがSPでもディディーを使った場合、まあ大会上位に食い込んでくることは想像に難くないですし、キャラランクにも間違いなく影響するでしょう。

キャラの強さを量るのに、人の強さが要素として介入してしまう。これではよくない。

対照実験の基本は、1つの条件のみ変更し他条件は一致させるようにすることです。

 

ならば

全キャラをそれぞれ全キャラ数分のMkLeoに極めさせれば最強のキャラランクを組めるのでは?

 

と思ったわけですよ。

まあMkLeoをそんな大量に用意するなんて無理無理!w

みんなで蟹でも食べてましょう!パリッ、モグモグ、ウンメ~~~!!!

おわり

 

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上の文章は、僕が数ヶ月前に書いて投稿したブログだ。
その場のノリにまみれた安易な内容で、言うなれば出落ちでしかない。

幸いにも書き上げたのは深夜で(深夜じゃなければこんなブログ書かない)、投稿直後に読み返して「やっぱナシだな」と思い直し、すぐに非公開にした。
誰の目にも触れられることもなかった、と僕は思い込んでいた。

それから数週間後。
僕は行きつけのバーで、あとからカウンターに座ってきたきた外国人の男性に声をかけられた。
カウンターで様々な地位、世代の人間と会話できることはバーのより良い楽しみ方の一つだろう。まして国籍も違えば、実のある話を聞けるというものだ。僕は喜んで応えた。
男性とは予想以上に意気投合し、別の日にまた会うことになった。

 

約束の日に待ち合わせのカフェについたとき、あ、と声が漏れた。
男性の隣に座っていたのは、MkLeoだった。
最初に浮かんだのは疑問だった。
どうしてあの男性の隣に、世界最強のスマブラプレイヤーがいるのだろうか?
そして、じわじわと驚きに変わる。え、なんで?
あと正直に言っておくと、ここからは男性の話すことがあまりにも現実離れしていて、彼等の細かい表情や身振り仕草などは記憶できていない。ポイントのみを押さえて自分の中で咀嚼するのが精一杯だったのだ。だから、男性が言っていたことをなんとか正確に思い出しつつ、記すだけにしておく。

男性は、社会の仕組みがわからず混乱している幼稚園児を諭すように、一文ずつゆっくりと話してくれた。

まず、最初に一つ謝らなくてはいけない。君にとっては私はあのバーで初めて出会い、親睦を深めたように思えるかもしれないが、私はもともと君のことを知っていた。
君が数週間前に書いたブログを、私は読んだ。私たちと言ったほうがいいかもしれない。私たちとは何か、と言われても、君が今想像するよりももっと大きな組織としか言えないけどもね。
それから君の素性を調べて、少しだけ後をつけさせてもらった。バーに入ったときはチャンスと思ったね。不審がられずに話しかけるにはうってつけだ。
じゃあ私たちの目的はなんなんだ、という話になるんだが、ここで私の隣にいる、MkLeoが出てくる。
彼は確かにMkLeoだ。だが、数あるMkLeoの一人でしかない。

 

端的に言おう。
私たちは、MkLeoをスマブラのキャラクターの数だけ作った。クローン人間というやつだね。
MkLeoたちに1キャラずつ極めさせて、総当たりさせることで最高精度のキャラランクを作るためだ。
この発想には聞き覚えがあるだろうね。そう、君がブログで書いていたものだよ。
私たちも君と同じ発想に辿り着いていて、それを実行したというわけだね。


しかしひとつだけ問題があった。MkLeoたちに1キャラを極めさせる段階で、だ。
MkLeoたちを同じ施設に収容して毎日対戦させていたのだけど、キャラの練度がどれも向上しないんだ。元が強いのもあったが、それを差し引いてもね。
どうしてだろうかとお偉いさんが頭を捻ってみたら、思いつく原因は二つほどあるらしかった。


一つに、自分と同じ思考の人間と対戦しても得られるものが皆無なんだよ。彼らは双子みたいに、いやそれ以上に同一な存在だ。それを同じ環境に放り込んでも、一人分の発想力にしかならない。
二つに、競争心がまるで生まれないんだ。自分たちが元はひとつであることを知っているから負けても悔しくもなんともない。ゲーマーは、ゲーマーに限らず勝負師全体にも言えることだが、敗北することによって自身を否定されたように感じる。それが努力の原動力になる。
しかし彼らは自分が負けたのは自分であると知っているからね。普段から一緒に過ごしていると、それを一層強く感じるようだ。

そこで、私たちはMkLeoを引き離すことにした。
ひとつの施設ではなく、世界各地にね。
各々新しい環境で刺激を受けながら、新たなMkLeoを創り出す。そのMkLeoにとってはそこが第二の故郷、第二のメキシコになるわけだよ。
ただ、この計画はもちろん秘密裏だ。
クローン人間なんて人権問題のど真ん中だからね。Caption Zackの比じゃないほど炎上する。
だからMkLeoを住まわせてくれる協力者は、この計画に賛同してくれるような人間でなくてはならない。
ここまで言えばわかるだろう。
10万ドルある。5万ドルは前払い、もう5万ドルは後払いだ。MkLeoを君の家で預かってもらいたい。


結論から述べると、僕はこの申し出を承諾した。
一介の大学生にとって10万ドルというのは理屈抜きに大きい。
だが、それ以上に「人類最高のキャラランクを作る」という、なにか重大な使命とも思える何かに乗せられたのだ。
そうして、MkLeoが僕の家にやってきた。
彼は「Wii Fitトレーナー」、フィットレを極めるために生み出されたMkLeoだった。
外国人の男性は「数ヶ月ほどで迎えに行く。それまで頼むよ」と残して姿を消した。連絡先も寄越さなかった。

最初はなんとなく距離をとられていたように思う。
だが、僕が大学に行っている間に彼はオンラインやトレモをして、僕が帰ってきたら一緒に夕食をとり、そのあとはゆるりとトレモを手伝う。そういう生活を繰り返してるうちに、僕らは次第に打ち解けていった。
僕は敬意と親しみをこめて、僕の家に来た彼のことをFitLeoと記すことにする。


FitLeoが僕の家に住んでいる間の出来事を語ればキリがない。
お互いの食文化が混ざり合って夕食の定番メニューがタコスと味噌汁になってしまったのはまだマイルドなほうで、僕が大学から帰ると彼が猫を抱きこんでいて、散歩していたら拾ったので飼っていいか、と聞いてきたのは流石に面食らった。
しょうがないので猫には『Captain Zack』と名付けて可愛がることにした。FitLeoがいなくなった今も家にいる。
人が入っている布団の中に潜り込むのが好きなのは名付け方が悪かったのだろうか。

FitLeoとはほんとうに色々な話をした。メキシコと日本の文化の違いを楽しむ会話もよくしたが、スマブラのことに関して語る彼はことさら情熱的だった。
彼曰く、スマブラプレイヤーは一定以上の地力がつけばトレモとオンラインだけでも十分にキャラを磨き切ることができるらしい。
確認や操作の練習はトレモでやればよくて、その他の足りない要素はオンラインで補えばよい。オンラインでの勝ちを目指すと狂いかねないが、成長という点ではむしろキャラが多彩で充分だ、と。
メキシコという決してシーンが成熟していない土地でほぼ一人ながら腕を磨き続け、世界一に登り詰めた彼の理論は独特ながらも説得力があったように思う。
彼はその言葉通り、みるみるとフィットレを仕上げていった。
読み合いの深さや多彩な択、それを確実に実行する操作精度。

贔屓目抜きに、すでに全一フィットレに最も近いように見えた。

FitLeoはあるセットプレイを開発し、それを好んでいた。しゃがみと跳ね返るボールを駆使した、どんなプレイヤーでも一度は引っかかってしまいそうな動き。対応も複雑で難しい。
僕が覚えている中で、これを初見で対処できたプレイヤーはいなかったように思う。
彼がこのセットプレイを決めたときに「やっぱりこのキャラ強いんじゃないかなぁ」と、ぽつんとこぼしていたのを思い出す。
本心から、本当にそう思っているときに出る、こぼし方だった。
僕はFitLeoが最終的にどこまでフィットレの知らない強さを引き出してくれるのかと思うと胸が踊った。その日は嬉しさと期待余って夕食のおかずを一品増やしたほどだ。


それからしばらくして、最後の日がやってきた。呼び鈴が鳴ったのは夜のトレモ中のことだった。
ドアを開くと、立っていたのはあの外国人の男性だった。
「久しぶり、数ヶ月ありがとう。それじゃあ」
彼はそれだけ言って、FitLeoを連れて消えてしまった。
FitLeoがなにか残していったかというと、僕の方をみて少し頷いただけだった。最低限の荷物だけ持って、男性とともに消えていった。

前々から、迎えが来たときのことは二人で相談してあった。迎えが来たら、すぐに出発できるように事前に荷物をまとめておこう。行くときはすっぱりと、帰ってきてからまたゆっくりと話をしよう。

 

そうしてFitLeoは消えていった。彼が帰ってくることは二度となかった。

 

 

長丁場になるとは予想していたので、数か月まったく連絡がなくても僕は焦らずにいた。前より少しスマブラの頻度を増やして、FitLeoがふらりと帰ってくる日を待っていた。

「前よりも上手くなってるね。驚いた」

こう言ってもらえるのを期待して、僕はトレモに籠っていた。FitLeoがそうしていたように。

外国人の男性がチャイムを鳴らしたのはそんな中だ。彼はトランクを一本、携えていた。

 

「これは約束だった後払いの5万ドルと……」

男性はトランクの中から札束を丁寧な手つきで机に置き、最後にUSBメモリを取り出した。

「今回のMkLeoたちの対戦データだ。総当たりは十先で行われた。すべての対戦が記録してある。記念にあげよう」

MkLeoらの本気の対戦が観られる、というのは素直にありがたかった。

しかし、それよりも、だ。

「うちに来たMkLeoは、どうしたんですか?」

男性はぽかんとした表情を浮かべ、そしてすぐにニカッと口角をあげた。

「そうか、そこまで察しがついていたものだと思っていたが。わかっていなかったのか」

僕には意味がわからなかった。意味をわかろうとすることを無意識に拒んでいた、のほうが正しいのかもしれない。

男性は「このUSBメモリを開けば自ずと気づくだろう」と残して、さっさと帰ってしまった。

 

僕の部屋には、5万ドルの札束と、USBメモリが残された。

 

ノートPCに差し込んでファイルを開いた。一覧をスクロールしていくと、『WiiFit trainer vs Peach』というタイトルの動画があった。

なぜか手の先から血の気が引いていく。男性の上がった口角が、頭に焼き付いていた。

 

10-2。試合は一方的だった。

まさに異次元としか形容できないコンボルートを、MkLeoのピーチは次々と繰り出していった。

FitLeoのセットプレイが通用しなかったわけではない。最初の数戦のうちはなんとかストックを奪い、そのまま試合をとることもあった。

しかし、後半になるにつれて完璧に対応されていった。

キャラ性能の差はあまりにも大きく、残酷だった。

 

そうやって、僕はFitLeoの試合をひとつずつ、絞るように観ていった。

勝率はほぼ五割。だが、強キャラ相手に負けるときはとことん一方的だった。

あるマッチアップではリーチの短さが響き、どうしても届かない。あるマッチアップでは、機動力が手数に直結し、蹂躙され続けた。

そうしてフィットレが負け続けるところをみて、僕はようやく気付くことができた。

 

 

そもそも同じ人間を増やしたところで、事が済んだあとにそのまま人間社会に放り込むのはあまりにリスクが高すぎる。

ならば、MkLeoたちを作った組織は、MkLeoをもとの一人までに減らすのではないか。

クローン人間を一人に合体させると、記憶の混乱から精神が分裂すると聞いたことがある。僕がもし血も涙もない組織のトップなら、一番簡単な減らし方をするだろう。

できるだけ苦しくない、心地よい安らかな眠り方を。

そして、どうせ元の一人に戻すなら一番強いMkLeoを残すんだろうな。と、連敗し続けているフィットレの動画を観ながらぼんやりと思った。

これはあくまで僕の想像でしかない。もしかしたら、今もFitLeoはどこかで生きているのかもしれない。

 

でも、ファイルの最後についてきたキャラランクの一番上にいたのがピーチで、MkLeoがピーチをメインキャラにするというツイートをみたとき、FitLeoとは二度と会えないんだろうな、と否応がなく実感させられた。

その日からトレモはしなくなった。

 

 

 

それからしばらくしたある日、Twitterに流れてきたオフ大会の切り抜き動画を開いた。ピーチを使うMkLeoが対戦相手の攻撃を捌いて、完璧なコンボを決めていく。

僕は驚いた。その相手はフィットレだったのだが、FitLeoの開発したはずのあのセットプレイを使っていたのだ。

彼がどこからそのセットプレイを知ったのかは知らない。もしかしたら彼自身が編み出したのかもしれない。FitLeoがいなくても、キャラの開拓は確かに続いていくのだ。

 

そして、MkLeoはそのセットプレイを完璧に捌いてみせた。

まるで何度もみたことがあるかのように。

直感した。FitLeoはきっと、彼の中で生きているのだ。

MkLeoの中で、数ある好敵手のひとりとして。

僕はトレモを開いた。

FitLeoがそうしていたように。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

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ちなみに、ファイルに添付されていたキャラランクはRaitoさんが出したキャラランクと完全一致していた。Raitoさんが黒幕なのか、それとも自力で辿り着いたのか、僕は知らない。